「声優のマネージャー」という仕事 : ホリプロ・金成雄文さんインタビュー前編 ─【今どきエンタメ職業最前線~あるいはオタクなオシゴト事情~ 第1回】(3/3)

声優オーディションTSCでは「人間性を最も重視」

――TSCの募集を声優アーティストに絞る、という判断に、社内はどういった反応でしたか。

金成:
 結構いろいろなところから反対意見ではないですが、「???」という反応がありました(笑) 直属の上司はもちろん後押ししてくれたんですが、社長がなかなかOKをくれなくて。難しい分野であるということが、社長は僕よりわかっていたからだと思います。社長としては、一回NGを出されたくらいでやめるんだったらやるんじゃない、という考えもあったと思います。何度も企画を上げていく中で、最後に社長がぼそっと「でも俺が反対する企画って成功するんだよな」と言ったのを聞き逃さないで「それはOKということですね?」と承認をとりました(笑)


――社外からの反応はいかがでしたでしょうか。

金成:
 実は、TSCのために一年前からアニメ業界の各所にご相談に伺っていました。本当にパイプが何もない中での立ち上げになることは避けたかったので。最初にMay'nを担当しているマネージャー経由でランティスさんを紹介いただき、音響会社さんにお話をお聞きしに行き、ラジオ局や声優事務所などいろいろな方々にご挨拶をしに行き、相談に乗っていただきました。


――他社の声優事務所さんからすると競合が増える、という話になると思うのですが、その点はいかがでしたか。

金成:
 みなさんお優しくて一緒に業界を盛り上げていきましょう、と言って下さいましたね。ただお会いするどなたからもご忠告いただいたのは「儲からないよ」ということですね(笑) 仕事の大まかな仕組みや相場感はわかってはいましたが、その真意までは実際に声優業界に踏み込むまでは実感として理解できでませんでしたね。


――TSCに対する応募者の方の反響はいかがでしたでしょうか。

金成:
 まずお話しなくてはいけないのは、東北大震災の年だったことです。TSCの記者会見を一週間後に控えたタイミングで、震災が起きました。当然のことながら、記者会見は延期。TSC自体もどうすべきか社内で議論となりました。やらない、という案もあったのですが、そういった空気の中だからこそ、エンタメが明るい話題を提供できるのではないか、という結論になり、当初の予定通りTSCを開催するだけでなく、最終的には東北6県すべてでオーディションを開催させていただきました。また、今後海外を見据えて活動できるタレントを、とも思いましたのでロサンゼルスでもオーディションを行ったことも印象的でしたね。イベントの結果としても、1万2745名の応募をいただくことが出来ました。


――それまで声優アーティストさんのご担当をされたことがない中で、金成さんの中で、どういった評価軸で応募者の方々を見られていたのでしょうか。

金成:
 弊社が一般的な声優事務所さんと一番違う点は、ほかのタレントと同様、基本的にマネージャーが個々の声優の担当になるということです。そうなると必然と接する時間も長くなりますので、人柄と言いますか人間性を最も重要視しました。もちろん演技がうまい、歌声が綺麗といったポイントも重要なんですが、ホリプロとして声優事業を長く続けていきたい、と考えていたので、僕自身だけでなく、ホリプロという会社にも受け入れてもらえなくてはいけない。僕らはアニメ業界に対して「お邪魔します」というところからのスタートなので、業界の方々に対しても真摯に向き合えなくてはいけない。だからこそ実直な子でなくてはいけないと思っていました。その土台があって、演技や歌唱力が乗ってくる、というイメージですね。
 そういった側面もあり、TSCでは合宿を行うんです。数日間でも一緒に生活したら、面接では見えてこない、それぞれのいろいろな個性が見えてきます。芯の強さや弱さ、協調性のありなし、周りへの気遣いができるかどうか。それでも氷山の一角ではあると思いますが、時間と手間をかけて、それぞれの個性に少しでも近づけたらと考えています。


――そういった選考の中、田所あずささんがグランプリに選ばれ、声優事業がはじまるわけですが、マネージメント業務の上で、それまでのタレントさんと声優さんでは違いはありましたでしょうか。

金成:
 スケジュールの切り方や業界のルールはもちろん違うのですが、根本的には変わらないと思っています。一方で先程の話とも重複するのですが、弊社の声優アーティスト事業はマネジメント方法も、選考フローも声優事務所さんとは違うため、業界内で浮いてしまうかな~思います。声優として業界で働くためには、通常専門学校から各事務所の養成所を経て、声優事務所に所属することが一般的です。それに対し、弊社の場合はTSCというオーディションを通して、一般の子がいきなり声優としてデビューすることになります。この点に関しては業界の方々に受け入れていただくために頑張るほかないなと思っています。

───後編へ続く


著者紹介



著者名:株式会社ワクワーク 中山英樹
2012年よりオタク系ベンチャーに参加し、同社にて2013年に海外向け通販事業を立ち上げを行う。2015年10月に独立し、フリーランスとしてコンテンツを使用したプロモーションの企画立案などに携わる。2016年5月に若手向けのコンテンツ業界就職支援事業を行うため、株式会社ワクワークを立ち上げる。アニメイベントレポートやインタビューなどでライターとしても活動。
http://wakuwork.net/